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「ふるさとだより」2006年6月

直線上に配置

相談室から           トリヤマ タロウ


 野宿を強いられている62歳のAさん(日雇いの仕事がと切れて4ヶ月目、腰痛があり、もう重労働はできない)は、福祉事務所に相談に行った時、自立支援センターへの入所を勧められ、約1ヶ月後の入所相談の予約日まで何とかがんばってと言われました。Aさんはこれで、今までの生活からなんとか抜け出せると思い、シェルターに寝泊りし、予約した日を心待ちにしました。予約日まであと数日になった時、Aさんはとても疲れ、宿泊の相談をするためにふるさとの家に来られました。

 相談を受けて、ふるさとの家ではAさんに自立支援センターではなく、アパートで仕事を探す方法もあることを伝えました。60代でこれまでのような重労働ができなくなってきた時、福祉事務所に相談して敷金を支給してもらい、アパートを構えて生活保護を受けながら仕事を探すことができるのです。Aさんは他の選択肢があったことにとても驚き、「アパートで仕事を探すほうがいい」と言いました。自立支援センターの入所申し込みを断り、アパートから就職活動に行くことを福祉事務所と話し合いました。そしてアパートに入れるまでドヤやシェルターから早速、就職活動も始めました。職安に通い、面接も受けました。職安以外にも、これまでの自分のつても頼りました。そして、とうとう元の職場で週何回かの軽作業で働くことが決まりました。仕事の決まったAさんはアパートを探し始めています。

 福祉事務所は数年前から野宿を脱出する方法の一つとして「敷金支給」が定着しているのにもかかわらず、この方法をAさんには言わず、自立支援センターへの入所という方法しか教えていません。そしてその後、1ヶ月も放置しています。(過去にふるさとの家で自立支援センター等への入所相談を受けたときは約2週間で入所しています)なによりも自立支援センターで常用雇用につながったケースは低く、60代ではさらに就職困難な状況だということはすでにわかっているのです。

 僕は2〜3年前にこのニュースレターで「(少なくとも)できることは乏しい選択肢をただ説明することだ。」と自戒を込めて書いたことがあります。福祉事務所が説明責任を果たしていない今、改めて、その思いを強くします。考えて作られた法律や制度があっても、それらを運用する立場の者が恣意的に運用したのでは、その法律や制度の理念を達成する事は到底できないでしょう。法律を無視し、制度を活用もせずに、あたかも誠実に相談にのっているかのようにふるまう事は決して許されません。

 Aさんに「1ヵ月後」と言った福祉事務所の職員は、飢えに苦しむこと、ダンボールの上で寒さに震えることを果たして「想像」したことがあるのでしょうか。「現実」をしっかりと見て、その痛みを想像することはできるはずです。まず必要なのは、「想像力」だと思います。想像力があれば達成できるはずもない指示、指導はできないはずです。そして相談者を1ヵ月放置するような役所内のへんてこなルールを見直してほしいと思います。